「大腸がんの原因といえば、食の欧米化や運動不足、遺伝でしょ?」
そう思われている方がほとんどだと思います。
しかし、
これまでの常識を根底から覆す極めて重要な論文が、東京大学医科学研究所などの研究チームより
権威ある科学誌『Nature Genetics』
に発表されました。
結論から言うと、
「日本人大腸がんの約半数、そして40歳未満の若年発症大腸がんの約70%が、ある特定の“腸内細菌が放つ毒素”によって引き起こされていた」
という衝撃的な事実が明らかになったのです。
この大発見のエッセンスを分かりやすく紐解いていきます。
1. ゲノムに残された犯人の「指紋」:コリバクチン産生大腸菌
人間の細胞のDNAは、紫外線やタバコ、老化などによって傷つきますが、
その傷つき方には原因ごとに
決まったパターン(変異シグネチャー)
があります。
いわば犯人が現場に残した「指紋」のようなものです。
研究グループが大腸がん患者さんの全ゲノム解析を行ったところ、
「コリバクチン」というDNA切断毒素を出す特殊な大腸菌(pks陽性大腸菌)の指紋
が、
日本人の大腸がんの
44.8%
から見つかりました。
さらに驚くべきは、
大腸がんの最初の引き金となる遺伝子(APC遺伝子)の変異が、
なんと10歳未満という幼少期の段階ですでに生じていた可能性
が示された点です。
子どもの頃にお腹の中に棲みついた菌が、数十年かけてじわじわと細胞を傷つけ、
大人になってからがんを発症させていたのです。
2. 「胃がんのピロリ菌」と同じ歴史が始まる?
ここで少し、消化器内科の歴史を振り返ってみましょう。
かつて「胃がん」は
塩分の多い食事やストレスが主因
と考えられていました。
しかし1980年代に
「ピロリ菌」
が発見され、ピロリ菌除菌治療が普及したことで、今や胃がんで亡くなる方は激減しています。
今回の発見は、まさに
「大腸がんにおけるピロリ菌革命の再来」
と言えます。
○これまで:食生活や加齢による「運悪くできてしまうがん」
○これから:特定の細菌感染によって引き起こされる「除菌や感染予防が可能な感染症由来のがん」
今後、大腸カメラ(内視鏡)や便検査でこの菌の有無をチェックし、ピロリ菌のように抗菌薬で除菌する時代が来れば、
「大腸がんゼロ社会」
も夢ではありません。
3. なぜ「若い世代」の大腸がんが増えているのか?
最近、臨床現場でも
「30代〜40代の若い世代の大腸がん」
に遭遇することが増え、世界的な謎とされていました。
今回の研究では、
40歳未満の若年性大腸がんの約7割にこのコリバクチンの傷跡が見られ、
特に
1965年以降に生まれた世代で急増していること
が判明しました。
衛生環境や抗生物質の使用歴、離乳食や食環境の変化など、現代特有の要因
でこの菌に感染しやすくなった可能性が議論されています。
若いからといって大腸がんと無縁ではない科学的根拠が、ついに示されたのです。
私たちが今できること
除菌治療が実用化されるまでにはもう少し時間がかかると予想されます。
だからこそ、今私たちができる最善の自衛策は
「定期的な大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」
です。
大腸がんは、
菌の毒素によってDNAが傷ついたとしても、いきなり巨大ながんになるわけではありません。
何年もかけて小さな良性ポリープを経て進行するパターンが
80%
と言われています。
早期に見つけてポリープのうちに内視鏡で切除してしまえば、がん化を未然に80%も防ぐことができます。
「便に血が混じる」「お腹の調子がすぐれない」
という自覚症状がある方はもちろん、血縁に大腸がんの方がいる方や40歳を過ぎた方は、ぜひ一度、
「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」
を受けてみてくださいね。