野菜だけの生活で栄養失調にならないの？ヴィーガン食がもたらすさまざまな問題とは？

最近は健康志向ということもあり、ベジタリアンの人も増えて野菜中心の食生活をしている人もいることでしょう。野菜は栄養学的に完璧な食材だと思っている人も多く、「野菜だけ食べていたらいいんじゃないか？」と考える人もたくさんいます。なかには「栄養のために野菜生活にしました」といった極端な人もいるようです。

しかし、実際のところ野菜だけの生活は身体にいいのでしょうか？今回は、ヴィーガンとは何か？またヴィーガン食がもたらすいろいろな問題について詳しく解説していきます。

1. ヴィーガンとは？

ヴィーガン(Vegan)とは、1944年にイギリスで設立されたヴィーガン協会の誕生と同時に使用されるようになった言葉とされていて、ベジタリアン(Vegetarian)の最初の3文字と最後の2文字を組み合わせて作られた造語です。日本語では「完全菜食主義」という意味が当てられていますが、要するに、野菜しか食べない人のことを意味します。

ヴィーガンになるきっかけや動機で多いのは、動物虐待やそれにつながる人間の食生活、社会の仕組みに問題意識を持ち、動物を殺さず、地球環境をより良くしていこうと考えることが大きいと言われています。

1-1.ヴィーガンとベジタリアンの違い

ヴィーガンとベジタリアンの違いですが、どちらも植物ベースの食生活を重視している点では同じですが、動物由来の製品をどこまで避けるかという点において明確な違いがあります。

ヴィーガンは、食生活において動物由来のすべての食品を完全に避けるのが特徴で、肉や魚はもちろん、乳製品、卵なども摂取しません。また、ヴィーガンは食事だけにとどまらず、動物由来の製品全般（例えば革、ウール、シルク）や動物実験を行った製品も避けるというライフスタイル全体を実践するなど、動物に関わるあらゆる搾取や苦痛を避けることを目指しています。

一方ベジタリアンは、一般的に肉や魚を食べない食生活を送る点ではヴィーガンと同じですが、乳製品や卵など動物由来の食品を摂取することがある点でヴィーガンとは異なります。ベジタリアンが野菜だけしか食べないと思っている人は多いと思いますが、本当の意味での菜食主義者はヴィーガンのことを指します。

ちなみにどの動物由来の食品を避けるかによって「ラクト・ベジタリアン」「オボ・ベジタリアン」「ラクト・オボ・ベジタリアン」と言った具合に呼び名が異なります。

※ラテン語でラクトとは「乳」、オボとは「卵」を意味します。

2. ヴィーガンが食べられるものとは？

ヴィーガンは植物性の食物しか食べないことはわかったものの、実際には何を食べることができるのかはっきりとわからない人も多いでしょう。

ヴィーガンが食べられる食材は次のようなものです。

2-1. 野菜類

ヴィーガンは基本的にすべての野菜を食べることができます。ほうれん草やレタス、小松菜などの青物野菜をはじめ、ブロッコリー、にんじんなどもさまざまな調理方法で食べられます。

2-2. 豆類・豆製品

大豆や黒豆、ヒヨコ豆などの豆類は、タンパク質の重要な供給源となります。また、豆腐や納豆などの大豆製品、豆乳やオーツミルク、大豆ベースの植物性ヨーグルト、チーズ、クリームなど動物性乳製品の代替品も食べることができます。

2-3. 穀物

米や小麦、オートミール、全粒粉などの多様な穀物もヴィーガンは食することが可能です。小麦を使用したうどんやパスタなどの加工食品も食べることができます。しかしながら、パンに関しては乳製品が含まれるものも多く、乳製品が入っていないフランスパンのようなものしか食べられません。

2-4. ナッツ類

アーモンドやカシューナッツ、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、ひまわりの種、チアシード、フラックスシード(亜麻仁)などは、良質な脂肪やタンパク質、ミネラルを含んでいる食品で、ヴィーガンでも食べることができます。栄養価が高い反面、脂質が多い点に注意する必要があります。

2-5. 調味料

ほとんどのスパイスやハーブはヴィーガン対応となっているため、醤油や味噌(出汁が添加されていないもの)、タヒニ(ごまペースト)、ビタミンB12を添加した栄養酵母などは調味料として使用可能です。ドレッシングやソース、マヨネーズに関しても、動物由来の成分を除いたものが販売されています。

3. 野菜だけの生活は栄養失調にならないの？

ヴィーガンのように野菜だけを食べる生活は、何かしらの影響が身体に現れます。一般的に野菜はビタミンやミネラルが豊富なイメージが高いのですが、実際にはそれらの栄養素が入っていないものもかなりあり、栄養失調になる可能性も否定できません。

たとえば、ビタミンDはイメージとして野菜に多く含まれていそうなのですが、鮭やサンマといった魚類には多く含まれているものの、実際のところ野菜にはほとんど含まれていません。鮭1切れ(80g)にビタミンDが25.6g含まれているのに対し、生のしいたけには0.6gしか含まれていないことからもわかります。

3-1. ビタミンDはなぜ重要？

ビタミンDにはいろいろな効果があると言われていますが、その中のひとつに腸内でカルシウムを吸収しやすくする働きがあります。ビタミンDが欠乏すると、カルシウムがうまく吸収されにくくなり、骨がもろくなって骨粗鬆症のリスクが高くなるとも言われています。

また、ビタミンDには免疫力を高める効果があります。免疫力を上げることによって、感染症の予防や大腸がんなどの予防効果があるため、ビタミンDの摂取は非常に大事です。それ以外にもビタミンDには認知症予防や高血圧症、糖尿病の予防効果もあります。

このようなさまざまな効果を持つビタミンDですが、ヴィーガンのように野菜だけを食べる生活になってしまうと、これらの予防効果を捨てることに他なりません。

3-2. ビタミンDが含まれる食物は？

ヴィーガンの人がビタミンDを摂取するためには、キノコやキクラゲを食べるのが効果的です。たとえばキノコ類でもビタミンDを多く含んでいるとされるアラゲキクラゲは、100gあたり14.7μg(乾物を茹でたもの)のビタミンDが含まれています。ですから、葉物野菜だけを食べる食生活では確実にビタミンDが不足してしまうと考えておきましょう。

3-3.ヴィーガンの食生活では鉄分も不足する

ビタミンD不足以外にも、ヴィーガンのように野菜だけの生活だと鉄分も不足してしまいます。鉄分は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分類されますが、ヘム鉄は赤身魚やカツオ、イワシ、赤身肉やレバーに含まれているもので、野菜だけを食べている人にとっては、このヘム鉄を摂るのが難しくなります。野菜に含まれるのはヘム鉄でなく非ヘム鉄のほうで、これには卵や納豆、ほうれん草、のりなどが該当します。

鉄分に関しては、ヘム鉄のほうが非ヘム鉄より吸収効率がよく、非ヘム鉄だけでは十分な鉄分を摂取できませんので、その結果鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

さらに鉄代謝が悪くなると、たんぱく質も吸収されにくくなってしまいます。そのため、たんぱく質が不足することで体にいろいろな不調が現れるため、たんぱく質が吸収できなくなるのは致命的といえるでしょう。

不足したたんぱく質は、もはや野菜だけの生活では補うことができず、その結果筋肉を分解してたんぱく質を作るしかなくなってしまいます。そうならないために、植物性たんぱく質を摂るという手もありますが、たくさん摂らなければならず現実的ではありません。

本来は、植物性たんぱく質と動物性たんぱく質を1対1の比率でバランスよく摂る方がたんぱく質の吸収においてもよいとされています。

4. まとめ

以上、ヴィーガンとは何か？またヴィーガン食がもたらすさまざまな問題について紹介してきました。

ビタミンDや鉄分(ヘム鉄)、たんぱく質などの栄養素が摂れないということは、体にとってかなり重要な栄養素が減ることを意味します。特に鉄分が減ってたんぱく質の吸収が悪くなり、たんぱく質が摂れなくなる、またビタミンD不足で免疫力が下がるなどは栄養学的にも全くいいことはありません。

野菜だけの食生活を実践することは、確かに動物虐待といった観点で見たらある部分では正しいと思いますが、栄養学的に見ると問題であり、人によっては栄養失調になる可能性もあります。できることなら、野菜だけではなくさまざまな栄養を摂ることを心掛けたいものです。

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